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ツリー Lion Heart 4章 ツリー
2000年12月
海亜 作


『こんばんは。』
『お前よく俺だって分かったなぁ〜。』
『あっ、俺、目が良いの。』
『お前、この前視力0.6って言ってたじゃん!全然良くねぇ〜よ。
あっ、このジャージ見て気付いたんだろ?』
『バレた?ハハハ〜。』
『なぁ〜。お前こんな所で何してんだ?』
『あっ、タクシー待ってるの。もう終電無くなっちゃってさ。
そう言う滝沢くんは?マラソンでもしてた?』
『あぁ。お前は?仕事だったのか?』
『ううん。あのさ、実は・・・』
そう小さな声で言い掛けた時、二宮の元へ走ってくる人が。
『ごめんね。トイレ込んじゃってて・・・。あれ?えっ!!』
どうやら俺に気付いたらしい。
『こんばんは。』
『あっ!こっ、こんばんは。初めまして。』
俺は初めて見る訳じゃないんだけどねぇ〜。
なんて思い、心の中で笑っていた。

『あっ、飲み物買ってくるね。』
『うん。』
二宮にそう言うと彼女は急いで駅のコンビニに行った。
『落ち着きないって思った?今日1日中あんな感じだったんだよ。』
『お前に会えて嬉しいんじゃないのか?』
『そっかなぁ?だといいんだけど・・・』
『あっ、お前・・・今日はデートだったのか?』
『うっ、うん。まぁ〜そんなもんかな。』
『いいなぁ〜。』
『滝沢くんは?最近、倫子さんと・・・あっ!』
二宮は“しまった!”といった顔をした。
『お前・・・なんで知ってるんだよ。』
『ごめん!美亜ってさっきの人だけど・・・知り合いらしいんだ。倫子さんと。』
『あぁ、知ってるよ。』
ヤバイ!
気が緩んで正直に答えてしまった。
二宮は俺が彼女の事を知ってるなんて知らないのに・・・。

『えっ?なんで知ってんの?』
『あっ、ジュニアのコンサートで隣の席に居たから、そうなのかなぁ〜って。』
『なぁ〜んだ。そういう事か。でも、1度見ただけで・・・凄げぇ〜。』
『俺、人の顔覚えるの得意なんだよ。』
『へぇ〜。』
よかった。信じてる。単純なやつだなぁ〜。

『あっ、話反れたけどなんで知ってんだ?』
『なにを?』
『だから・・・。そのつまり、俺と倫子さんの事。』
『あぁ、そっか。それ言ってなかったね。ハハハ。
あいつが1時間程前に電話掛けてたの。
なんか妙に深刻な顔してて・・・それ気になってさ〜。
誰?って聞いても言わないから俺、不機嫌になったの。
そしたら“絶対に内緒よ”って教えてくれたんだよ。』
『電話の相手って・・・倫子さんだったのか?』
『うっ、うん。』
『まじ?まじで?』
『うっ、うん・・・』
俺は突然、降って沸いて来た情報源に驚き大声になってしまった。
二宮は訳が分からず、ためらっていた。
でも・・・よく考えたら携帯は今も使ってるって事だよな。
という事は・・・。俺、避けられてる?
そう考えると気分が沈んでしまった。

『それにしても・・・あいつ、遅いなぁ〜。』
『ほんと。もう5分は過ぎてるぞ。』
『あっ、来た。危ねぇ〜。落っことしそうだよ。』
『えっ?』
『ほら、あれ。』
二宮の視線の先を見た。
右手に4つ、左手に1つジュースを持って走ってる。。
『ほんと、持ち方変。っていうかなんであんな沢山持ってるんだ?』
『だよな。ハハハ〜。』

『お待たせ〜!って和くんなんで笑ってるの?』
『べつに〜。それにしても随分遅かったな。』
二宮が意地悪そう言った。
『えっ?あっ、あのね。そこのコンビニに入ったんだけど
何を飲みたいのか聞くの忘れたでしょ?
でっ、戻ろうと思ったんだけどなんか深刻な顔してたし・・・。
だから冷たいのを3本適当に買ったの。
でも、まだ外で待ってなきゃいけない事に気付いて。
でっ、その先の自販機に温かいのを買いに行ったの。でもね・・・。』
『はいはい。もういいから。滝沢くん、喉渇いてるよ。ねぇ?』
二宮は笑いながら言った。
『えっ?あっ、うん。』
俺は慌てて答えた。
『あっ、そっか。ごめんね。はい、どうぞ。』
そして冷えたウーロン茶を渡してくれた。
さっきまで走ってたから冷たくて気持ち良い。
『ありがとうございます。』

『和くんはオレンジシュースね。』
『え〜、温かいのないの?って、何しに自販機に行ったんだよ〜。』
『・・・急いでたからホットとコールド間違えて押しちゃったの。』
『ぶっ。そんな事だろうと思ったよ。』
『もぉ〜。笑い事じゃないよぉ。。。』
『でっ、その手元に持ってる物は?』
『えっ!?あっ、・・・ホットココア。』
『それ、頂だい。』
『えー・・・。分かった。はい。』
『うそだよっ。ハハハ〜。でも一口飲ませてよ。』
『えっ?!うっ、うん。』
2人の、やり取りを見て倫子さんの事を思い出し懐かしくなった。

『あっ、そうだ。俺・・・倫子さんの事、言っちゃった。』
『えっ?うそぉ。』
彼女は二宮の言った言葉に驚いていた。
今にも泣きそう顔してる。
そして、俺に向き直り頭を下げて言った。
『あっ、あの・・・ごめんなさい。』
『俺も・・・ごめん。』
その横で二宮が頭を下げて言った。
『あ〜別にいいっすよ。気にしないで下さい。
二宮も・・・。そんな事すんなって。』
『良かったぁ〜。』『良かった。』
2人同時に頭を上げ、同時に言葉を発した。
その事がなぜか可笑しくてたまらなかった。
そんな俺を見て2人もつられて笑っていた。

―つづく―




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