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笑顔の行方 V____ 第4章
2001年2月
しいな 作


 オレは、あの店の裏口から猛ダッシュで出てきた。
正面玄関を避けて裏道を走って行く。
あの人が合コンで知り合った人だ。
携帯電話から聞こえたあの時の声と同じだった。
包容力のある大人の男。
サラリーマンだよな。
日向さんに・・つき合って欲しいって言ってる!?
宣戦布告!?
自信たっぷりで真っ直ぐな力強い目でオレを見つめてきた。
動揺して答えられなかった。
いや・・本当に彼女のことが好きなら・・言えた筈だ。
でも、言えなかった。
女性客に囲まれそうになって慌てて逃げてきたんだ。
オレ・・本当に日向さんの事が大事なのか!?
自分が可愛くてあの場所から出て来たんじゃないのか・・。
オレに彼女を好きでいる資格があるんだろうか?
自分に問いかける。
「滝沢くんだ・・。何でこんな所にいるんだろう?」
「きゃー。タッキー。」
大通りに出てくると、そう言う声があちこちから聞こえる。
帽子もサングラスも置いてきたから通りかかる人が声をかけてくる。
マズイ・・もう戻らないと。
携帯を取り出して時間を見る。
こんな時でも仕事をきっちりこなさなければいけない。
「ちくしょう。」
あの人に面と向かって言えなかった自分に腹が立つ。
オレの方が・・ずっと・・ずっと・・。
その言葉を呑み込んでオレは思いっきり走り出す。
自分に罰を記すかのように・・。





「今日・・集まれないってさ。」
翼の残念そうな声がきこえる。
あの事件から、数日間・・。
オレの時間は止まったみたいだった。
オレは、いつものパソコンで画像の編集をしている。
ぼーーっっとしてるオレは翼の問いかけにも反応していない。
「どうした?何かあったんだろ?」
身体を揺すられてそう言われる。
「あっ?えっ・・悪りぃ・・何?」
「日向さん、会えないってさ。」
オレは「そっか・。」とため息をつく。
当たり前だよなー。
気まずいよなぁ・・。
会いずらいよな。
今回は本当に参った。
普段仕事でも滅多にへこまないのにカウンターパンチだった。
「滝沢らしくねー。ほら、話してみろって。」
翼は「何かいつもと逆だねー。」とオレを見てる。
少しは話したら楽になるんだろうか?
そして、ぽつり、ぽつりと話していった。
聞いているうちに翼の柔和な表情が段々と真剣に変わっていった。
「それで、自分を責めてるんだ。仕方ないじゃん。こういう仕事してんだから。
日向さんも分かってくれてるってば。」
「だけど・・くやしいんだって!あの人に負けてるような気がして・・。」
オレの気持ちは変わらない。
ずっと前から彼女のことを好きなのに。
翼はオレに強く言い聞かせる。
「とにかく、好きだって伝えることが先決だって!それで・・気になることがある。」
そういうと自分の携帯のメール画面を出す。
日向さんからのメールを見る。
「そういえば・・風邪気味だって言ってたな・・。」
薬を飲んで「大したことない。」って笑ってたっけ。
「ホラ・・こういう時こそ病人は心細いものなんだって!」
・・と翼はマジな顔してオレにジャンバーを渡す。
「べっ・・べたなシチュエーションだなぁ・・。」
そう言いつつ、翼からそれを受け取って身支度をする。
「翼は・・どうする?一緒に行くか?」
すると、玄関先で笑いながら「そんな野暮なことはしません。」とおどけて言う。
「まぁ・・留守番してるから。健闘を祈る。」
「おう・・サンキュ。じゃ行ってくっから。」
時間はPM11:00をとっくに回ってる。
電車が無くなる前に行かないと。
オレはダッシュでマンションを後にした。





オレん家から彼女のアパートまでは電車で30分。
完璧に帰りは電車がない。
そう・・窓の外を見ながら・・ちょっと期待するオレ。
電車を降りて、急いで走って向かって行く。
何台か入るかは入らないかのスペースの駐車場がある。
赤いキャミがある。
日向さんの愛車。
部屋を見ると・・あれ?明かりがついてない。
どっか・・出かけたのかな?
不思議に思って駐車場に入っていく。
なんか・・人影がうずくまってる?というか寄りかかっている。
近くに行くと・・会いたい人がいた。
「ひ・・日向さん?」
彼女は辛そうに息をしている。
見るからに病人で駆け寄って声を掛ける。
「どうしたの?大丈夫?」
汗をかいて・・顔色もすごく悪い。
「あ・・秀くんの幻がみえる・・。」
とオレをみてそう呟く。
目の焦点が合ってない気がする。
幻って・・やばいよ。
完全無欠の病人じゃん。
オレは彼女を両手で抱いて運ぶ。
(恥ずかしいけどお姫様抱っこというらしい。)
2階のアパートまで運んでいく。
一端ドアの前で下ろして、カギを探す。
車のカギについてるよな・・と合うのを差し込んでドアを開けて中に入る。
先に上がって電気をつけ、彼女を再び抱えて部屋に運びソファに座らせる。
暖房のスイッチをいれる。
暖まるのは時間が、かかりそうだ。
「風邪薬どこにあるんだ?」
日向さんに声を掛けてみたけど・・反応がない。
まいったなぁー。
最悪、オレが車を運転して救急病院に行った方がいいのかな。
考えていると・・ソファにいるはずの彼女がいない。
ふと・・寝室のドアが開いてる。
ちょっと・・入ってはいけないような気がするけど・・ドキドキしながら覗いてみる。
オレは・・思わず背を向ける。
着替えをしてて・・下着姿だった。
ちょっと期待してたけど・・だめだっ。
相手は病人なんだぞ!
振り払うように自分に言い聞かせる。
ドキドキしながら・・薬を探すオレだった。


―つづく―


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