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笑顔の行方 U____ 第4章
2001年1月
しいな 作


「ほなー!タッキー、またなー!」
とすばるが手を振って帰っていく。
只今11時は済んでる。
「元気だしてなー!!」と最後に付け加える。
オレも「おう!」と頷いて手を振った。
そうは言ってはみたものの・・。オレの心ここに非ず。
電話を掛けてみようか・・。
携帯電話を取り出す。
オレは迷いながらとぼとぼと歩き出す。
いつもはマネージャーさんに送ってもらうんだけど、今日は1人で歩きたい気分だったから断ったんだ。
携帯の呼び出しの番号を検索する。
思い切って掛けてみる。
数回のコールの後・・聞き覚えのある声が聞こえる。
「もしもし?」
「オレ?わかる?日向さん。」
オレは、歩きながら・・彼女の声を聞く。
「わかるよ。滝沢くんでしょ?何?仕事終わったの?」
駅のホームかな?アナウンスとか電車が発車する音が漏れてくる。
「うん・・これから帰る所・・日向さんは?」
誰?友達?
男の声が聞こえる。
大人の男の声・・。
低いけど優しい雰囲気なのがわかる。
もしかして・・さっき見た団体の1人?
「うん!そう。あっ・・!ごめんね。私も今帰るとこ、それでさ・・。」
最初の「うん・・そう!」はその人に言ってるんだよな。
どんなひとなんだろう。
2人っきりっぽい・・。
オレが何も言わないでいると、彼女が「どうしたの?」と優しく聞いてくる。
「滝沢くん・・もしかして疲れてるの?」
「いや・・その・・声が聞きたかっただけだから・・。じゃ・・また!」
「あっ!ええっ・・」
慌てたような彼女の声を無視して携帯を切ってしまった。
オレはなんとなく・・近くの駅に向かう。
会えるはずもないのに・・。
もしかして・・日向さんとその人はそのまま・・。
嫌なことを考えてしまった。
胸がしめつけられそうだ。
こんな思いをかき消してくれるのは彼女だけだから・・。
きっと、笑顔をみると安心するのに・・。



「切れちゃった・・。」
声が聞きたかったって・・。
どうしたんだろ?嫌なことでも・・あった?
携帯をじっと見つめる。
滝沢くんの家に行きたいって言いたかったのにな・・。
「どうかしたの?」
私は隣に三浦くんがいることをすっかり忘れてた。
一緒に歩いてる彼がそう声を掛けてやっと我に返る。
「うん・・後でまたかけてみる。」
私は、後ろ髪を引かれるように・・携帯をバッグにしまった。
そういう雰囲気を感じたのか彼が聞いてくる。
「もしかして・・・彼氏とか?」
とくん・・。心臓が止まったような気がした。
「ちっ・・違うよ。」
私は否定する。
急に顔が熱くなる。
「じゃぁ・・好きな人だ?」
驚いて、彼を見る。
心臓の脈を打つスピードが早くなってくる。
「正解って顔してるよ。おまけに年下なのかな?」
私たちは駅のホームに立って電車を待ってる。
何て答えてよいものか・・戸惑って・・無口になる私。
好きな人か・・。
翔子にも言われたっけ・・。
今まで考えてなかったけど。
違うな・・。
考えてなかったんじゃなくて、考えないようにしてただけなのかも。
「オレの入る余地はない?」
「えっ?・・みっ・・三浦くん?」
彼の表情は真剣で私を真っ直ぐ見つめる。
「また、会いたいから・・連絡する。じゃ!」
彼は私の返事を聞かないまま・・近くの階段を下りていった。
ちょっと・・この状況は・・私は混乱する。
三浦くんは・・私のことを?これは・・早々に返事しないと・・。
その時、ホームに電車が入ってくる。
乗り換えがあるので、ドアの近くのポールに寄りかかる。
何駅かで降りて走って終電に乗り込む。
ぎりぎり間に合った。
乗客はまばらで、私はホッとして椅子に座る。
そこから、終点までノンストップ。
だけど後から気づく。
そのまま自分の家の方角に乗ってしまった。(ドジだ・・。)
滝沢くんの家に行こうと思っていたのに・。
後で・・電話しよう。
すごく気になるし、しょうがないからMDも明日にしょう。
そう思ったら急に眠気が襲ってくる。
今日はいろいろあったなぁ・・と思いつつ目を閉じる。
少し・・お酒も飲んだしなぁ・・。



 日向さんの家の方向の電車のホームにオレは立ってる。
会える保証もないのに、電車を待ってる。
寒い・・。
雨が降り出して来た。
もう次に来る電車で終電。
今まで3本の電車に乗って、彼女を捜しては降りてる。
もしかして・・もう家についてる?
それとも、あの声の男と一緒だったりして・・。
不安で苦しい・・。
そんな思いのせいかオレの頭の中はいろんな事を想像してる。
携帯の着信音が鳴る。
メールが来てる。
翼からだった。
『おっす!すばるから聞いたー!落ち込んでない?今どこにいんの?』
情報・・早いなぁ。
まぁ、すばるは心配してくれて翼に連絡したんだろうけど。
オレは、駅で日向さんを捜していることを素早く文字を入力していく。
後、終電を残すのみで・・ってのを付け加えて返信する。
数分でまたも翼からメールが来る。
『すっげぇ、熱いじゃん!がんばれよ。もし、日向さんの家に泊まるようなら連 絡よこすように・・。健闘を祈る』
そんな・・ばかな・・。
オレはちょっと救われる。
サンキュとだけ打って返信した。
そうこうしてるうちに電車がやってくる。
やはり人もまばらだ。
先頭の車両から乗って順番に見て歩く。
ふと、長椅子にもたれてる彼女を発見!
いたっ!!
心の中でガッツポーズをした。
隣には誰もいない。
彼女ひとりだけ・・。男の人はいない。
オレは・・ホッとしてる。
静かに近づいておどかしてやろうかと忍び足で歩いていく。
ドアの近く、入ってすぐの所に彼女はいる。
近くに来てそっと上から見下ろすと・・。
おいっ!寝ちゃってるよっ!
オレは慌てて彼女の右側に座る。
全然気づかない。
もしかして・・アルコールも入ってるかもしれない。
飲むと寝ちゃうんだよなぁ・・。
んったく・・危なっかしいなー。
呆れつつも楽しんじゃってるオレ。
寝顔を見る。
暫く見とれる。
化粧のせいか・・いつもの彼女に比べて大人っぽい。
それにしても・・あまりにも無防備だ・・。
オレはドキドキしながら、彼女との椅子の隙間を埋める。
腕が触れ合うくらいに・・。
「日向さん・・。」
小声でそっと声を掛ける。
「う・・ん・・。」
・・とちょっとうなされるような・・色っぽい声を出す。
その時電車の揺れが大きくなる。
彼女の身体ごと傾いてオレの肩にもたれてきた。
うわっ・・!
心臓がバクバク!やかんとか給湯器みたいに身体が熱くなる。
周りを見渡すと・・寝ちゃってるサラリーマンのおじさんや本を読んでる人とか 数人で無関心なのかほとんどの人が自分の世界に浸ってる。
オレの忍耐力もここまでだ・・。
覚悟を決める。
彼女の身体を左手で支えて、右手で顔を上に向ける・・そしてそっと唇を奪う。
この間約数秒・・。
すごく長く感じた。
もう・・顔から火が出そうだ。
相変わらず周りの乗客達は無関心。
そして、元通りにオレにもたれるようにする。
熟睡に近いのか全然気づかない。
オレは少し考えて・・、
「好きだよ・・。」
と耳元で囁いてみる。
答えてくれない。
でも・・今はこれで・・満足なオレ。
いつかは・・きっと・・。
その時、次につく駅名がアナウンスされる。
すると、彼女は目を覚ます。
ちょっと眠そうな表情だ。
残念・・。もうちょっと寝顔が見ていたかったな・・。
慌ててオレに頭を下げる。
「あっ!すみません!」
オレだってまだ気づいていない。
「いーえ、どういたしまして!」
そう言った後の彼女の顔と反応っていったら・・。
オレは、仰け反って笑う。
だって・・すげー、可愛いかったから・・。


―つづく―


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