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彼女の温もり
Winter Night
2003年12月
しいな 作


12月もあっという間に真ん中を過ぎた。
オレ滝沢秀明は、1月からの帝国劇場「DreamBoy」のリハーサルの 真っ最中。
ボクシングジム行ったり他の仕事もこなしつつ日々全力投球だ。
もうすぐクリスマスだなぁと移動車の中でイルミネーションを見ながら思う。
もうとっくに午前0時を回ってる。
仕事も終わってこのまま家に送って貰うだけ。
風呂に入ってバタンキュー。
こんな生活が1月は続いている。
会いたい人にも会えない。
少し会えただけで癒されるのに・・なんて思いながら車窓を眺める。

彼女に会いたいな・・。
まだ、告白もしていなくて片思いなんだ。
オレが一方的に思ってるだけ。
彼女の姿を思い浮かべながら再び外の風景を見る。
「もうすぐ着くな。今日は、ゆっくり休むんだぞ。」
とマネージャーから言われた。
「わかってますよ。いつも同じことばっか。」
笑いながらバックミラー越しにマネさんの顔を見る。
そして・・ふと一瞬窓の外の景色を見てオレは思わず声をあげた。

「ちょっ・・止めて!」
「はっ?何言ってんの?マンションまでまだ距離あるんだぞ?」
ブレーキを踏んだのかスピードが緩む。
「いいからっ・・お願いしますっ。」
必死な様子を見てマネさんは、仕方なく車を道路の路肩に止めた。
「ごめんなさいっ。ここでいいです。降ります。」
オレは、ドアノブに手をかける。
「おいっ・・タッキー!夜道気をつけるんだぞ!」
と声をかけられる。
オレは、頷いてドアを閉めた。

20歳を過ぎた男なのに夜道に気をつけろとは・・情けねぇなんて思いながら車とは逆の方向を目指して走った。
コンサート前のマラソンコース。
オレは、全速力でがむしゃらに走る。
ふと・・その姿が見える。
そこまで一気に駆け抜ける。
「ハァ・・ハァ・・」
止まって息を整えようとするオレ。
街頭に照らされた人物は不思議そうにオレを見つめる。
「あれ・・?滝沢くん・・どうしたの?」
両手に紙袋、肩からは大きめのカバンを下げている。
ぽかんと鳩が豆鉄砲くらったような顔で彼女はオレを見つめる。
「どうしたも・・こうしたも・・何で・・ここにいるわけ?」
全身汗だく・・ゼェゼェと歩道にしゃがむ。
「ん〜・・バイトの帰り道かなっ。」
と呑気にニコニコと答える。
かなっ。・・てなんだよ。
オレは、ちょっと気が抜ける。

「すごい汗だね。どこから走って来たの?」
同じ目線でしゃがんでそう聞かれる。
うわっ・・すげぇ・・接近してる(///)
全速力で走ったせいなのかそうじゃないのか動悸が激しい。
「車で送って貰ってて歩いてるの一瞬見えたんだよっ・・。」
息を乱しながらそう答える。
「それで・・わざわざ降りて来てくれたんだ。」
はいっ・・とカバンからハンカチを取りだして差し出された。
「さ・・サンキュー・・」
Dキャラのプーさんだった・・あっ・・見たこと無い柄・・じゃなくてっ。
「こんな時間にバイト終わるのかよ。送って貰えないの?」
汗を拭きながらそう聞いた。
「やさしい職場じゃないし・・迎えに来てくれる人もいないし。」
2人で並びながら歩く。
迎えに来てくれる人=彼氏・・いないのか・・。
心の中でガッツポーズしてるオレ。
「女の子の一人歩きは危ないじゃん。おまけに今何時だと思ってんだよ。」
オレは、心配してんだぞって気持ちを込めて言った。
すると彼女はきょとんとオレを見上げる。
うっ・・可愛いじゃん(汗)
「私なんか襲う人いないよぉ・・でも心配してくれたんだ?ありがと。」
と素直に礼を言われる。
オレは、照れてしまい話題を変えてしまう。

「でも・・家って反対方向じゃなかったっけ?」
ふと・・彼女の持っているものを見る。
ケーキ?の箱っぽいんだけど・・・。
「滝沢くんの家ってこの辺だよね?」
彼女は、おずおずと伺うように聞いてくる。
「ああ・・そうだけど。まだずっと先だけどね。どうかした?」
すると彼女は立ち止まりオレを見上げてくる。
「バイト先で作ったのなんだけど・・食べるかなぁって。えっと・・クリスマス用のオードブルの試作品とケーキなんだけど。」
オレは、一瞬頭が真っ白になる。
彼女がオレのために持ってきてくれた?
オレが何も答えられずにいると・・捲くし立てるように早口で話す。
「あたし・・もしかしたら正社員に採用になるかもしれないんだ。試作品が認められたら正式に採用されるんだよね。それで、厨房で作ったんだけど・・。」
ちょっと君の顔が紅いのは寒さのせい・・? それとも・・オレは・・ちょっと期待してしまう。
「ケーキも・・甘いの苦手でしょ?だから控えめにしてみたんだ〜。」
いっぱいいっぱいって感じで必死に喋ってる。

「あのさ〜・・オレに会いに来てくれたんだ?」
オレは、思い切って言った。
「あたし・・ここで帰るね。これっ・・」
はぐらかすようにオレにケーキと料理の入った紙袋を渡す。
ひんやりと冷たい手がオレの手に伝わる。
どれくらい・・寒い中歩いてたんだろう・・。
そのまま「じゃ!」って歩いて行く。
「おいっ!こらっ!どうやって帰んだよっ。さっき夜道危ないって言ったばかりだろ !」
怒鳴るように言うと彼女は驚いたように振り向いた。
「うっ・・たっ・・タクシーで帰るもん。」
恨めしそうにオレを見つめる。
可愛いなぁ・・ちょっと強がる所。
「いいから。オレが送ってくよ。心配で寝れないだろ。」
「大げさだよ〜・・」
彼女は、困ったようにそういう。

オレたちは再び並んで歩きだす。
「コレ・・サンキュー。めちゃくちゃ楽しみ。受かるといいよな。」
というとクシャクシャと「うん。」と笑う。
ニコニコとする彼女を見れてオレはすごく癒されている。
何百m歩いたろう・・マンションまであまり話さなかったけど、 彼女がいるだけでそれだけで心が満たされていく。
「ここで待っててよ。車出してくるから。」
すると彼女は、オレを見上げる。
「やっぱり・・ここでいいよ。疲れてるでしょ?」
そう俯いて言う。
「なぁに・・言ってんだよっ・・オレのために来てくれたんでしょ? なら送ったっていいじゃん・・さっきの聞いてなかったな?」
いつもは・・無口なオレだけど今日は何だかペラペラ話しちゃうな。
なんだかいつもと違って緊張してるんかな。

「すぐだから待ってろよ・・動くなよ!」
と言って車庫に向かおうとすると彼女はオレのジャケットの端を掴んだ。
オレは・・彼女の名前を呟く。
「なあに?どうしちゃったのかな〜?」
「あたし・・実は・・ソレは口実で滝沢くんに会いたかったんだ。」
オレは、紙袋を落としてしまう・・はっ・・ケーキが・・。
ってそれどころじゃなくて・・。
「いつも・・すごく不安で・・仕事も決まらないし夢挫折しそうになったりで 落ち込んでる私を励ましたり元気づけてくれて・・」
オレを切なく顔を真っ赤にしながら話す彼女から目が離せない。
「相談に乗ってくれたりしてるうちに・・私・・」
顔中ぐちゃぐちゃにして泣き出してしまう。
「ずっと・・暫く会えなかったから・・会いたくなって来ちゃったの・・」
胸がとくんと疼く。
君もオレと同じ気持ちだったんだね。
「ご・・ごめんね。迷惑だよね・・でも・・言っておきたくて・・」
「何言ってんだよ・・迷惑なんて・・」
オレは、小さい体がめちゃ愛おしくなって包み込むように抱きしめる。
なんだか・・包んだ体も冷たいような気がした。

「オレも・・会いたかった。」
さらに腕に力を込める。
「あの・・あたし・・滝沢くんの事好きって意味なんだけど。」
おずおずと伺うように見上げる。
「オレも大好きだよ。だからスゲ〜嬉しい。」
彼女は、驚いたようにオレを見上げる。
「なんか・・夢見てるみたい・・」
と言った途端くしゅんと彼女がオレの腕の中でくしゃみをする。
「夢じゃないよ・・確かめる?」
「え・・?」
ドサッとモノが落ちる音がする。
それは・・彼女の唇をオレが奪ったから。
数十秒の間重なる。
最初は彼女の唇も冷たかったでも段々熱くなっていく。
先ほど冷たかった体にも熱が伝わっていくかもしれない。
オレの全身の温度も上がったから。

唇が離れると胸の中で吐息が漏れる。
「な?夢じゃなかったじゃん?」
というオレの言葉に彼女は首を振る。
「まだ・・信じられないんだ?部屋寄ってく?」
彼女は、オレを突き飛ばして顔を真っ赤に染める。
かっ・・可愛いなぁ。
「まさか・・すぐそんなことしないって!」
オレは、彼女を安心させるようにカラカラと笑って彼女の手を取る。
相変わらずひんやりと冷たい。
もっと・・温めないとダメかな?なんて(///)
「ちょっと早いけど食べ物もあることだし・・クリスマスしようぜ。」
ケーキはくずれちゃったかもと付け加えると大口を開けてガハハと笑う。
うん・・いい感じ・・君には笑顔が似合う。
恋人達とのクリスマスにちょっと否定的だったオレだけど 悪くないなと思ったりして。
彼女の手を引っ張る。
でも・・オレの自制もいつまで持つかなぁ・・。
なんて彼女の手の温もりを直に感じながらドキドキを押さえられないオレだった。


fin


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