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恋に落ちよう
falling love
2000年9月
しいな 作


いつも、彼は決まった日にやって来る。
「いらっしゃいませ!」
私こと、副島敬子はコンビニで働いている。
彼を見かけて、明るくそうあいさつする。
帽子を目深にかぶってオレンジっぽいサングラスを掛け、日に焼けた少年が 店に入って来た。
彼は軽く私をに見て頭を下げる。
お目あてのプロレス雑誌と大好きな柿ピーなどのおつまみ、飲み物などをカゴに 入れている。
店にいる他のお客さんは全然気づかない。(私にはわかるっ!!)
ジャニーズJrの滝沢秀明君。
このコンビニで働くようになって3ヶ月。ずっと常連さんらしくて、 毎週同じ時間にやってくる。
彼がレジにカゴを置く。
私はマニュアル通り言葉をかけると、低い大人っぽいハスキーな声で 返事をする。(格好いいなぁ・・。)
「ありがとうございました。」
お金も貰って(この時ちょっと手がふれる。どきどき)
商品を袋にいれて、あいさつした。(かなり笑顔で!)
すると、彼はにっこりと微笑んで(エクボが出来てる。///)
お辞儀して帰っていった。マネージャーさんらしき人の車に乗り込み、車は 出ていった。

      
ある日の午後、仕事帰り雨が降り出していた。
朝の降水確率は50パーセント。私は大きめのビニール傘を開く。
急いで家に帰ろうと走っていく。足に雨水が跳ねる。
ふと道路沿いのガードレールに腰をかけている人をがいた。
歩いて少し近づくと男の子で傘もささずに上を見上げていた。
彼だ・・。滝沢君。
ずぶぬれで、街灯に照らされた姿はとても綺麗だった。
息も出来ないくらい、暫く・・何秒か、何分かなんてわからない。
見つめていたというか、見とれていた。
私は・・綺麗だけど少し寂しそうな彼に思い切って声を掛けてみた。
このまま帰っていったって気になるだけだもん。
「どうしたの?」
彼の頭上に傘を差し出す。近くに寄ると本当にただそこにいるだけで絵になる。
「あ・・コンビニの・・。」
嬉しい・・顔を覚えていてくれたんだ。
・・にしても今日は早番。夕方の6時だけど何でこんな時間に・・?
「ちょっと・・仕事抜けてきたんです。・・お姉さんは?」
と心を見透かされたように滝沢君は少し遠慮がちに答える。
「仕事帰りだけど。もしかして、イヤなことでもあった?」
我ながら緊張してるのに聞き返してしまった。案外、怖いモノしらずかもしれな い。自分じゃないみたい。
「まぁ、そんなとこかな。あ・・名前なんていったっけ・・副島・・」
ああ、名字おぼえててくれてた。神様ありがとう死んでもいいわ!!
「副島敬子です。滝沢君。」
彼も・・知ってたんだって顔した。そりゃそーだ。
ふと、彼は時計を見る。時間を気にしているようだ。
「戻らなくていいの?仕事。」
そう聞いたあと、どうしたらいいのか悩んでいるみたいだった。
まだ、戻りたくないのかな?でも・・このままじゃ・・。
気づいたとき、とんでもないことを口にしてしまった。
「もし良かったら、家で服乾かさない?そのままじゃ、戻れないでしょ?」
すると、彼は戸惑いながらも私を見上げて言った。
「いいんすか?」
その表情が子犬のようにで可愛い。
私はなかば強引に(じゃないと風邪ひきそうだし)彼を促して家に連れていった 。


家に着くとさっそく彼にシャワーを使わせて、服を洗濯して乾かす。
私はきっとお腹が空いてるよねと簡単な料理を作ろうと台所に起つ。
「あの・・シャワーありがとう。」
彼がバスルームから出てくる。ツンツンヘアが艶やかに濡れている。
ほほも紅潮していて・・色っぽい。私はドキドキしてる。
「うん、あの・・少し元気でた?」
私がそう聞くと少し困ったような表情になる。
「あの場所にいたくなかったんだ・・。なさけないよね、逃げ出してきたんだよ 。」
声に少し元気がなく、TVの中のおどけてるイメージはまったくない。
「少しくらい息抜きしたって良いんじゃない?人間休むことも大事だもん。」 と滝沢くんに声を掛ける。
すると、「うん・・。」とだけ返事をする。すこし笑ったような気がした。


そのあと、料理を2人前ぺろりとたいらげ、合間にほかのJrのメンバーの話 をしてくれたりして、すっかり元気になったような気がする。
私が洗い物をしているとすっかり乾いた服を着た彼が声を掛けてきた。
「あの・・さ・・。」
「なに?滝沢君・・ああ、もうこんな時間遅くなっちゃったねー。」
と振り向く。
「また・・遊びに来てもいいかな?」
信じられない言葉が彼の口から発せられる。
同時に動揺した私は皿を思いっきり落として割ってしまった。
「あー、やっちゃった。」
片づけようと破片をあつめていると右の人差し指を思いっきり切ってしまう。
「痛ったー!!」
結構どくどくと血が流血していた。
「案外ドジなんだね。敬子さんって。」
彼は私の前にひざまずいて顔をのぞき込んできた。
悪かったなぁ、ドジで・・と君が突然、人を動揺させるからでしょう・・。と 言おうとしたとき、信じられない事が起こる。
「ちょっと!滝沢君!?」
彼が私の右手を取ったかと思うと指の傷口ぺろと舐め、口に入れたのだ。
私の体温、脈拍は一気に急上昇。頭に血が上ってぼーっとしてしまう。
ちょっと、どうしよう、息が苦しい・・死にそう・・。
このまま、失神してしまいそうだった。
「はい!出来たっと。」
どこからか出した絆創膏で指の傷口を包み込んだ。
「あっ・・ありがとう。」
やっと、絞り出すようにそう言うと、
「どういたしまして。」
にっこりと無邪気にタッキースマイルで私をK・Oする。
その後、彼は仕事先に戻った。あの、返事を聞かないうちに・・。
「夢じゃないよねー。」
と・・ふとほほをつねってみる。
その日はドキドキして一睡も出来なかった。

               
数日後、いつも彼が来る日。まともに滝沢くんを見れない。
いつものようにプロレス雑誌と柿ぴーなどをカゴに入れる。
レジにやって来る。
「いらっしゃいませ・・。」
「こんちわ。この間はありがとう。あの後怒られたけどね・。」
私は精算しながら、彼の言葉に耳を傾けていた。
「ありがとうございましたー。」
彼を見て言う。少し笑ってる。
後ろにお客さんがいないことを確認すると小さい声で聞いてきた。
「この間の返事聞くの忘れたんだけど・・。」
「この間って・・」
「また、遊びに行っていい?」
私は顔から火が出そうだった。どうしよう・・。
ふと、彼が私にメモをくれる。
「もう少したったら、電話してよ。待ってるから。」
にっこりと手を振って店を出ていく。いつも通りマネージャーさんの車に乗り込 んで帰っていった。
私は呆然といつのまにかメモを見つめていた。
→絶対にTELすること! 
そのあとに携帯の番号が書いてある。
何となくにやける自分がいる。
「副島さん!!お客さん!!」
店長の怒鳴り声で我に帰る。
気が付くとお客さんが並んでいた。「早くしてよ」って感じで・・。


そのあと、ちょっとの合間にメモの番に電話してみる。
こころなしか、手が震える。
「もしもし・・滝沢です。」
・・と低い彼の声が聞こえる。 名前を言う。声がうわずってしまう。
彼はその声をきいて笑っていた。

また・・今夜も眠れそうにない。だって、彼の声が耳に残ってるんだもの。


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