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悲しみが解けるとき 4章 
2002年3月
しいな 作


着いた場所は、恋人達の憩いの場・・。
海の見える公園。
まだ・・時間が早いせいかカップルもそんなに多くはなかった。
学生とかも結構いたりして・・。
隣を歩いている青年を見ると・・気にせずにカメラを持って、 たまに立ち止まって撮ったりしてる。
何でも・・ここから絶景ポイントがあるらしい。
それを私に見せたいそうだ。
私は、彼が写真を撮っている間・・道の脇の手すりに身体をあずけて ライトアップされた海を見つめていた。

思い出すのは・・あの・・海・・砂浜のある・・海。
彼の笑う顔・・一緒に過ごした時間・・温もり・・。
まだ・・忘れられない思い出・・。
「どうしたの?」
少し心配そうな顔の滝沢くんの声で我に返る。
「いえ・・別に・・海をボンヤリ眺めていただけです。」
と誤魔化す。
彼は、「ふ〜ん。」と言うといきなり私にカメラを向けシャッターを切る。
「化粧も落ちて変な顔だからやめてください〜。」
鞄で顔を隠すと面白がってたくさん撮ってる。
その時・・何だか・・視線を感じて滝沢くんの反対方向を見る。
振り返ると・・見覚えのある人物が立っていた。
「さくら・・さくらじゃないっ。」
何も言えないでいる私に滝沢くんは、「誰?友達?」と聞いてくる。
「久しぶりっ!もう・・みんな心配してたんだよっ。」
彼女は、次に隣の滝沢くんを見つめる。
「?」って顔で彼は私に訴えてる。
「良かったぁ・・もしかして・・彼?」
って聞かれる。
私は、首を横にブンブンと振ってその場を逃げるように走った。
「あっ・・ねぇっ・・何・・ちょっとぉ!」
という滝沢くんの声が微かに聞こえた。
しばらく走って息が切れる。
私は・・先程の手すりの端まで来ていた。
そして・・その手すりにもたれて・・思わず泣いてしまってた。




 「何だよ・・わけわかんねぇ・・。」
さくらさんは、オレと彼女の友達らしい人を残して走り去ってしまった。
「あの・・。さくらの恋人じゃないの?」
と突然聞かれる。オレは、慌てて首を横にブンブンと振る。
「ち・・違うんですよ。そんなんじゃないっす。」
言っててちょっと虚しいじゃん。
すると・・彼女は、「あちゃ〜!」と失敗をしてしまった時のような口調で 自分の頭をこづいている。
「てっきり・・好きな人が出来て・・元気になったと思ってたのに・・。」
といってためいきをついた。
もしや・・この人は、彼女の泣いていた訳を知ってるんだろうか。
でも・・聞いていいのだろうか?
すると・・彼女は、手帳をビリっと破いて何やら書いてオレにくれる。
「これ・・さくらに渡してくれますか?ごめんって謝っておいてほしいの。」
彼女は、寂しそうな表情でオレを見つめる。
メモには、名前と携帯の電話番号が書いてあった。
「あのっ・・こんな事聞いていいのかわかんないんだけど・・。」
思い切ってオレは、彼女にこうきり出した。
知り合って間もないけど・・公園で泣いていた事や2年も休学しているって 聞いたことを彼女に話してみる。
彼女は、ふとオレの顔をマジマジと見つめる。
「あなたって・・恋人じゃないんでしょ?友達?知り合い?」
「いや・・会ったときから気になるっていうか・・なんつうか・・その・・。」
オレは、もごもごと口ごもる。
すると彼女は、「ふ〜ん・・。」とにやりと笑みを浮かべる。
「そうねぇ・・。私の口から言って良いのかわかんないけど・・。」
勿体ぶったような口振りから真剣な表情になる。
「彼女の恋人は、彼女を残して死んでしまったの。」
オレは、息が止まる。それって・・あの手帳には・・?
「それからよ。彼女が私達友人にも連絡しなくなって・・大学も休学になったの。」
声を出せないオレに彼女は、ニコッ!と笑い掛ける。
「まぁ・・頑張ってね。もういい加減・・忘れてもいいと思うんだけどね。」
そう言うと・・彼女は、ふと・・オレの顔を見つめる。
「あれ?どこかで会った事ない?」
「あっ・・いえ・・人違いですっ・・じゃっ!」
オレは、慌てて頭を下げてその場を後にする。
少し走った後・・「あ〜!!」という彼女の声が微かに聞こえた。バレたな・・。

                    


私は、手すりにもたれて海を見つめていた。
ビル群の明かりですごく綺麗な夜景。
ぼんやりと見つめていたら後ろから声を掛けられる。
「さくらさん!」
ちょっと・・息を切らして滝沢くんが後ろにいた。
「これ!電話くれって渡された。話しなくて良かったの?」
手帳を破った紙をくれる。
彼女の携帯の番号かな・・。心の中でごめんと謝る。
「すっげ〜心配してたよ。オレもだけど・・。」
滝沢くんは、横に来て私にそう言った。
なんか・・すごく心配そう。真剣な感じだし・・。
もしかして・・聞いたんだろうか・・。
「彼女・・何か言ってた?」
私が、そう聞くと「えっ・・あ・・まぁ・・少し・・。」と口ごもる。
そっか・・聞いたんだね・・。
「私・・忘れられないの・・。」
髪が風になびく・・少し寒い。二人で手すりに手を置いてもたれている。
滝沢くんは、何も言わない。
「2年前に交通事故でね・・バイクだったんだけど・・つき合っていた彼が突然 死んじゃったの。
すっごく好きだったから・・。どうしていいか分からなくて・・
大学も行かなくなって家にずっと籠もっていたの。
何にもする気が起きなくて 毎日泣いてばかりだった・・。」
滝沢くんは、真剣に聞いていてくれて身体の向きを変えて背中で柵に寄りかかってい た。
「そんなとき・・兄夫婦に赤ちゃんが出来て・・生まれたのが和ちゃんなんだけど。
初めて抱かせて貰ったときに・・なんとなく・・この子のために頑張ろうっていうか 良く分からないんだけど・・私の止まっていた時間が動き出したの。」
私は、何故か分からないけど・・滝沢くんに話していた。
「でもね〜。やっぱり・・忘れられないの。ふと・・思い出しちゃうんです。
今日だって・・海でしょ?彼と行った海のことが蘇ってしまうの。」
私は、知らず知らずに涙を流していた。頬に滴が落ちる。
「急がなくて・・いいんじゃないかな・・。」
いままで耳を傾けてくれた滝沢くんが そう私を見ていった。
「無理に忘れなくてもいいと思う。また、人を好きになれば自然と忘れられると 思うよ・・て失恋とかと訳が違うよね。ああっ・・オレ何言ってんだろ!」
滝沢くんは・・そう言ってくれる。
すごい・・・ポジティブなんだね・・。でも・・目からウロコ・・
好きな人が出来たらかぁ・・。
私は、ちょっとだけ元気になったような気がする。
「ありがとう・・聞いて貰えてスッキリしたかも。」
指で涙を拭ってそう言うと・・、
「時間が解決してくれるよ。だから・・前向きに頑張ろうよ。
その友達とも会って話してみなよ。その方が絶対にいいって!」
私は、頷く。
和ちゃんがもうちょっと大きくなったら大学も復学しようかな・・。
なんて考えていると・・目の前の階段を滝沢君が上っていく。
一番上から「こっち!こっち!」と手招きする。
私も後を追って上まで登る。少し息が切れる。
「ほら!ここからの方がきれいだよ。」
振り向くと・・さっきの夜景がもっと広がって見えてすごい絶景。
ほんとに・・うん・・知らなかったなぁ・・こんなところがあるなんて・・。
「ありがとう。」
私がそういうと・・にこっっと笑ってエクボが出来てる。
トスッ・・何か目に見えない音が聞こえた。何だろう?
そのとき・・携帯に電話が・・。
「もしもし?」
出ると・・義姉だった。
「今日は、何時に帰ってくる〜?まさかお泊まりじゃないよね。」
「もう少しで帰りますよ。もう・・さっき電話したら出なかったでしょ?」
って話をしてると・・「帰っちゃうんだ・・。」ってぼそぼそと聞こえる。
「え?」私は、滝沢くんを見る。
「ねぇ・・誰かと一緒?」
義姉がにやついた声でそう聞いてきた。
「ああ・・うん・・友達だよ。じゃぁ・・もう少しで帰るから。」
といって強引に切った。
滝沢くんと一緒にいること・・隠しちゃったな・・。って言えるわけない。
なんて考えて携帯をしまう。
「おねぇさん?」
と滝沢くんが聞いてきたので頷く。
「何だかんだって・・心配なんだね。」
と彼は言うと私の隣でしゃがんでる。
まぁ・・そうなんだろうけど・・。私は、ちらっと滝沢くんを見下ろす。
「あの・・今日は、有り難う・・とっても楽しかったです。」
とぺこりと彼に向かってお辞儀する。
「いや・・別に・・そんな畏まらなくても・・オレは、何もしてないですよ。」
と笑って立ち上がる。
「モデル料ですから。って連れ回しちゃったけどね。」
私を見つめて柔らかな笑みを浮かべる。
その表情に危うく魅入られそうで・・目を逸らす。
ちょっとの間・・。私は、我慢出来ずに・・切り出した。
「さて・・もうそろそろ帰ろうかな。」
「送りますよ。」
すかさず言ってくれたけど・・私は、駅が近いし電車もあるから大丈夫だと 断った。
モデル料なんて・・とんでもないと思った。
「そう言わずに・・あの公園近辺でしょ?オレん家も近いから途中まで 乗っていけばいいのに・・。」
すごく残念そうに見えるのは・・私の錯覚かしら。


―つづく―




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