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悲しみが解けるとき 1章 
2002年3月
しいな 作


ある晴れた日の午後・・私、響さくらは、1歳と少しの和ちゃんを 連れて近所の公園にお散歩に来た。
12月の終わりだというのにお天気も良くて久しぶりの外だった。
遊具では、子供達が遊んでいたり、お年寄り同士がベンチに座って話をしていたり してる。 
私は、広い公園をベビーカーを押して歩いてる。
開いているベンチを見つけると・・そこにベビーカーを止める。
私は、ゆっくりと読書。
彼女は・・すやすやと寝息をたてている。
何十分経ったのか・・彼女がぐずる鳴き声をあげた。
私は、本を置いて彼女をベビーカーから抱き上げてあやす。
どうにも・・嫌がる感じ。
お腹が空いたわけでも・・おむつでもなさそう。
仕方なくベンチの私の隣に座らせる。
彼女は珍しそうに辺りを見回した。
まぁ・・ベンチの高さは結構あるから・・降りれられないよねっと 私は、またゆっくりと本に目を通していた。
それまで・・「きゃっ、きゃっ!」と声をだしていた彼女だけど・・ いつの間にか静かになっている。
「かっ・・和ちゃん?」
まっ・・まずい・・っ。
まだ歩きたてだと思って油断しちゃった。
私は、辺りを見回す。
見あたらない。
ちょっと・・影になっている・・遊具方面に足を向けた。






 12月も終わりに近づいたある日、オレこと滝沢秀明はとある公園に来ていた。
今日は、久しぶりのオフ 、フラフラと散策している。
荷物は、携帯と財布が黒のスウェットパンツのポケットに入っていて 手には、最近はまっているカメラを持ってる。
何気ない風景を写真に収めている。
ファインダーで覗きながら・・シャッターチャンスを見つける。
ある時は、ベンチで気持ち良く寝ちゃってるサラリーマンのオジサンや 訳分かんない銅像なんかを撮ったりしてる。
構図とか難しいんだよね。
ふと・・オレの視界に 創作意欲を刺激するものが飛び込んできた。
「おっ!?小っちゃい子だ。」
まだ、よちよち歩き・・かっわい〜な〜!
その子はよろよろと今にも危なっかしくて転びそうだった。
「きゃっ!きゃっ!」
ふと、目線が合う。
喜んでいるような・・。(何で?)
オレが立っているところにこれまた危なっかしく走ってくる。
そして・・右足に激突!
「わぁっ!」
女の子かな?着ている物がそんな感じ。
オレを見上げてにっこぉ〜!と笑ってる。
「和ちゃ〜ん!」
女の人の声だ。
この子の事だろうか?
まだ・・オレの足にしがみついてニコニコしてる。
「あっ!和ちゃん!」
その名前でしがみついてる子は、声の方向に首を回す。
女の人が赤ちゃんの元へ走り寄ってくる。
「もう!まだ歩き出したばっかりなのに・・ちょろちょろするんだから・・。」
お・・お母さんかな?オレはじっと見てしまう。
「あっ!ごめんなさいっ!」
お母さんらしき人はオレに気づいてそう謝った。
何だか・・きれい系の今どきの女の人って感じかな。
あんまり・・お母さんらしくないな・・。
「いやいや・・いいんですよ。」
そういうと・・その人は赤ちゃんをおれの右足から引き離す。
そして抱きかかえる。
すると・・同時に「ふぇっ・・」と赤ちゃんは泣き出した。
オレに向かって両手を突き出す。
きゅん! 何だろう・・胸がしめつけられるような感覚は・・。
プロレスのレスラー同士が仲直りして握手した瞬間と似てる?(違う?)
それとも、初めてヒデゾウを手に取って抱きかかえた時みたいな?
「あのっ・・抱かせて貰っていいですか?」
オレはカメラを近くのベンチに置いて彼女から赤ちゃんを受け取る。
すると・・和ちゃんと呼ばれた赤ちゃんはピタッと泣きやんだ。
「わぁ・・信じられない・・泣きやんじゃった。」
彼女は・・目を(@@)してオレを見ていた。
オレは、オレを見つめている赤ちゃんのぷにぷにのほっぺをつんつんする。
ニッコォ〜 と満面の笑みを浮かべる。
笑ってるよぉ〜!
「かっわいい〜な〜。和ちゃんって言うんだ。」
「女の子なんですよ。」
オレは、その後・・赤ちゃんを被写体にしてたくさんシャッターに納めた。
時に泣いたり、笑ったりして・・あきないよなぁ。
他人の子供でも可愛いんだもんな。
自分の子だったら手帳とかに写真入れるの 分かる気がする。
「この子すごい人見知りなんですよ。あっ・・でもTVとかで見るからかな?」
彼女は、オレを見つめてそう言った。
あらっ?(笑)バレてら。
でも・・1歳くらいだよな・・分かるのかな?
ベンチに座って和ちゃんを抱きながら彼女を見る。
「和ちゃんのママが滝沢くんのドラマとか良く見てるんですよ。」
「へぇ・・そう・・えっ!?ママ?」
オレは、今の言葉を聞いて驚いて彼女を見る。
すると、彼女は「え?」って表情を見せる。
その後思い出して納得したようにオレを見つめた。
「わっ・・済みません!オレっ・・」
「あはは・・良く言われるんです。やっぱり赤ちゃんと一緒だとそう言われても 仕方ないですよね。
気にしなくていいんですよ。」
彼女は終始笑顔でそうオレに言ってくれる。
話を聞いてみると、彼女は・・和ちゃんの叔母さんらしい。姪っ子ってことだよね。
共働きの両親に変わって面倒を見ているらしい。
つまり・・ベビーシッターってことか・・。
「あっ・・もう・・こんな時間!」
彼女は、腕時計を見て立ち上がる。
オレも自分の携帯を見る。2時を少し回ったくらいだった。
名残惜しいけど赤ちゃんを彼女に渡した。
「和ちゃん良かったね〜。お兄ちゃんにいっぱい遊んで貰って。」
言われた本人は「キャッ♪」と喜んでいる。
オレは・・また自然にカメラのシャッターをきっていた。
彼女は、近くに止めてあったベビーカーに赤ちゃんを乗せる。
「あのっ?いつもこの公園に来るんですか?」
そうオレが聞くと・・赤ちゃんを優しく見つめながら、
「お天気の良い日はなるべく外に出かけるようにしてるんです。じゃ!」
と言ってベビーカーを押して去っていった。
はぁ・・しまった。ものすごく失礼な事を言っちまったな〜。
笑ってたから怒ってないよね。
そうか・・いつも遊びに来てるんだ・・また会えるんだろうか。
あっ!名前聞くのを忘れててた・・。
あれ?オレ・・なんか変かも?
ちょっと・・左胸がドキドキしてる。
何でかな?と思いつつオレも夕方からの仕事が控えているのでその場を後にした。

―つづく―




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