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儚き春の光・・・四夜
hikari akihide story
2001年7月
海亜 作


途中、時徒さんに輝夜月さんの事を聞いた。
右大臣の娘。そして義理兄の白虎帝に入内予定。

  『ですから・・・つまり密会でござます』
『えっ?そっ、そんな事していいの?』
『普通はダメなのです。ですが若君は・・・。
って、ご本人に申すのも変な事でございますね』
『いいの!もっと詳しく教えて!』
必死になってお願いした。

『輝夜月様とお会いになるのは今日が2回目でございます。
初秋の宴が行われた際に若君が一目惚れされまして
その晩に屋敷に忍び込まれました』
『へ〜』
『若君!まるで他人事の様におっしゃって・・・』
だって〜他人事なんだもん。しょうがないじゃん!
と思ったけど一応謝った。
『すみません』
『えっ、あっ、わたくしの方が謝らなければなりません。
数々の暴言、ご無礼をお許し下さい』
時徒さんは真剣な顔で言い頭を深々と下げた。

  『いいえ。いいんです。頭を上げて下さい』
『若君・・・。記憶を失われてから性格が少々変わられましたね』
『そっ、そう?』
『はい。お優しくなられました。
ですが!お言葉使いが野蛮になら・・・あっ、また暴言を。失礼しました』
『あっ、頑張ります。じゃなく気を付けます』
『はい。あっ、もう到着致しました』

時徒さんが言うと牛車が停まって窓(?)が空いた。
そこから外を覗いた。大きな門構えの立派な屋敷。
『すっ凄げ〜〜〜!!』
思わず叫んでしまった。
すると、もうすでに降りていた時徒さんにギッと睨まれた。
そんなすぐに言葉使い治るわけないじゃん・・・(-_-;
俺も降りよ〜っと思い足を地に着けると
『若君は、ここで待機なさって下さいませ』
と言われた。なんで?

普通は家臣が歌を届けるんだよ。密会の場合は特に。
だって断られるかもしれないじゃん。

『そっか〜。って朱果!良かった〜。お前が居てくれて。
あのな・・って分かってるか。一緒に行ってくれるよな?』
それが・・・ダメなんだよ。女の人の前には出れないの。
『えっ?!まじ?嘘・・・』
大丈夫だよ。タッキーなら出来る!
そんな・・・。俺が1番苦手なの知ってるくせに・・・。

時徒さんが戻って来た。
『若君!返歌を頂きました。どうぞ、お屋敷にお入り下さいませ』
『はい・・・。』

女房らしき人に寝所を案内された。
『こちらでございます』
『あっ、はい』
その人・・輝夜月さんは御簾の向こうに居た。

『明秀でございます。今宵は月がキレイで・・・』
慣れない言葉使いに困難しながら言った。
『明様?お体の具合はいかがでございまするか?』
『あっ、もう大丈夫。でございます』
『わたくし・・・心配しておりました。
明様にもしもの事があったら、わたくし・・・わたくし・・・』
そう言って声を殺して泣いていた。

俺は泣き止むのを、そっと待っていた。
そして、数分後。
ようやく話が出来るようになった輝夜月さんが言った。
『わたくしとした事が、取り乱してしまいました』
『いいえ』
『あの・・・明様。こちらに来ていただけませんでしょうか?』
輝夜月さんは蚊の鳴くような小さな声で言った。
『えっ?あっ、はい』
そして御簾を上げ輝夜月さんの側へ行った。
灯明(とうみょう)の薄明かりで、その姿がハッキリ映った。
キレイに着飾って・・・まるでお姫様みたい。
透き通るような白い肌、クリクリっとした瞳、す〜っと通った鼻。
明秀が一目惚れしたっていう気持ち・・・分かるな〜。

『いやですわ。そんなに見ないで下さいませ』
『あっ、すみません』
ハっと我に返り目を反らした。
『明様・・・わたくし、あの夜から心が痛むのでございます』
痛む?って・・・あっ!
俺は輝夜月さんが結婚する予定だという事を思い出した。
そして、その事を聞いてみた。

『はい。ですが・・・わたくし・・・。もうどうして良いのやら』
『まさか、結婚をやめたい!なんて思ってない・・ですよね?』
『そのような事は出来ません。ですが・・・』
『そっか。良かったぁ〜』
思わず安心して言ってしまった。
『明様・・・。わたくし、どんなに心を痛めたか。うぅぅぅぅ』
『あっ、ちっ、ちょっと待って違うよ。えっと、えっと・・・』
『あの夜の事は覚えていらっしゃらないのですね?』
『えっ?あの夜?って?その・・・つまり・・・』
俺がそう言うと輝夜月さんは小さな声で答えた。
『強引に、わたくしを奪った夜の事・・・にございます』
『あっ、あぁ・・・』
やっぱり。

『わたくし。もう帝様の元へは嫁げませぬ。もう出家の道しか・・・』
『ダメだよ。そんな事言ったら』
『いいえ。わたくしは・・・心が明様でいっぱいなのでございます。
わたくし・・どうすればいいのでございますか?
わたしくを、どうか救って下さいませ』

救ってって言われても・・・。 実際、俺は滝沢秀明で明秀じゃないんだから分かるわけがない。
でも、今はそんな事言ってる場合じゃないんだ・・。
少し考えた後、少々キツイ言葉を言った。
同情して優しい言葉を掛けるより
冷たい言葉を言って忘れさせてあげる方が本当の優しさだと思った。

『輝夜月さん。私は恋心多き男です。
今後一緒に居ても苦しむだけです。幸せにはなれません。
一夜の過ちだと思い、どうか私の事は忘れて下さい』
『さようでございますか・・・』
大きな瞳に涙がいっぱい。
それが零れないように我慢をしている様子。
思わず手を伸ばしそうになったが寸前のとこで留まった。
その代わり、言葉を掛けた。

『兄上は堅実で優しいお方です。どうぞ幸せになって下さい』
『・・・帝は、お優しい方なのですか?』
『はっ、はい』
って1回しか会った事ないけど(^^;
『さようでございますか。きっと明様に似てお美しい御方なのでしょうね』
『えっ?輝夜月さんは会った事が無いんですか?』
『はい。幼き頃に一度御目に掛かった切りでございます』
そっ、それで結婚?嘘だろ?
この時代の女性は強いんだな〜。
家の為(=政略結婚)とは言え顔も性格も知らない人と結婚なんて・・・。
なぜか輝夜月さんが可哀相に思えてきた。
そして優しい声を掛けた。

『あの・・・わたしに何か出来る事有りますか?』
『はい。きっとこれが最後の夜になるかと思います。
今宵は一緒に月を眺めていとうございます』
『あ、そんな事ですか。お安い御用です』
『それと・・・』
えっ?まだ続きが有んの?
『わたくしの事を輝夜と呼んで下さいませ』
『えっ?あ、あっ、はい』

―つづく―




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